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思い出のマリーン

子どものころ、よく行っていた『マリーン』。

同級生のけーちゃんのご家族がやっていた

町のちいさな喫茶店だ。

カウンター席とテーブル席が5卓ほどの広さで、

ドアを引くと、カランカランと鳴るベルと

色とりどりの熱帯魚が泳ぐ水槽が目に入ってくる。

そして、いつでも、やさしい笑顔で

「いらっしゃい」と迎えてくれたのが、

けーちゃんのおばあちゃんだった。

けーちゃんのお父さんは

一人息子をプロゴルファーにするのが夢で、

いわゆるゴルフの英才教育に熱心だった。

けーちゃんのお母さんは

とっても美人さんで、華のある方。

親同士の集まりに連れて行かれて、

そのたびに、私はけーちゃんと

マリーンの周りを走り回って遊んでいた。

7年前の大震災で、我が町にも津波がきた。

当時、道路が復旧していないとか、余震の多さで

実家に帰ろうにも、すぐには帰れなかった。

しばらくして、帰省した際に

父の運転する車で海岸線沿いを走り、驚愕した。

あったはずの家が一帯姿を消していて、

あの『マリーン』もなくなっていた。

なんでも地形の関係で、マリーンの辺りに

最も波が入り込んだそうなのだ。

その近くの時計台は、地震の時刻で止まっていた。

けーちゃんのお父さんは、

私たちが中学時代に亡くなってしまって

そのころ、喫茶店から焼肉屋に変わったらしく、

以来、一度もマリーンには行っていなかった。

ここにあったマリーンがない・・・・

あの喪失感はなんとも表現しがたいものだった。

去年、けーちゃんのおばあちゃんが亡くなった。

仮設住宅にひとりで入っていて、亡くなる直前まで

みんなに手料理を振舞っていたって話を聞いて、

けーちゃんのおばあちゃんらしいな、と思った。

けーちゃんのおばあちゃんの

あのやさしい笑顔を思い出すと、泣きそうになる。

ちっちゃくて、可愛らしいおばあちゃん。

人のやさしい目って、忘れないものなんだよね。

そして、味覚の記憶もずっと残り続ける。

私はマリーンのミートソースと

チョコレートパフェが大好きだった。

あの味、他のお店じゃ絶対に味わえない。

ボロネーゼとか、小洒落たパフェとは全然違うの。

子どものころの「特別な日の」味って感じで。

あの日、一瞬にして無くなってしまった命も

誰かにとっての大事な場所も

二度と帰ってくるものではないけれど、

自分の心の中に

大切にしまっておくことはできるんだよね。

忘れてはならない日のこと。

追憶の日、みな、誰を、何を想うのだろう。

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